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公開日:2020.06.11 36414view

漢方で見る感染症対策vol 13 清肺湯と辛夷清肺湯

新型コロナウイルス感染症は、主に肺や呼吸器の症状が現れることから、感染症についてお伝えする「漢方で見る感染症対策」シリーズの9回目では麻黄湯と麻杏甘石湯を紹介しましたが、今回は黄色く粘って切れにくい痰のあるときに用いられる「清肺湯(せいはいとう)」「辛夷清肺湯(しんいせいはいとう)」を薬日本堂漢方スクールの山吹講師が紹介します。


清肺湯~肺の熱を冷ましてスッキリ
清肺湯は今からほぼ400年前の明の時代に書かれた『万病回春(まんびょうかいしゅん)』に収載されており、その名の通り“肺を清める”漢方薬です。漢方で「肺」は、呼吸の通り道である鼻、咽、気管支、肺などの「呼吸器全般」をあらわしています。

清肺湯の「清肺」には、肺の熱を冷まし、清涼にするという意味がこめられています。
ここでいう肺の熱とは、一般に言う呼吸器系の炎症のことであり、古くから清肺湯は、慢性的な肺や気道の炎症からくる咳や、黄色く粘り気の強い痰などの症状に用いられてきました。各々の生薬の特徴を追いながら漢方薬のはたらきを探ってみましょう。

◎生薬のはたらき

黄芩(おうごん)、山梔子(さんしし)…肺の熱を冷ます
天門冬(てんもんどう)、麦門冬(ばくもんどう)…肺を潤して熱を冷ます
五味子(ごみし)…肺のはたらきを調整して咳をしずめる
桔梗(ききょう)、杏仁(きょうにん)、桑白皮(そうはくひ)…肺のはたらきを調整して咳、痰をしずめる
竹如(ちくじょ)、貝母(ばいも)…粘りの強い黄色い痰を取り去る
陳皮(ちんぴ)…滞っている痰を巡らせて外に出やすくする
茯苓(ぶくりょう)…水のめぐりを促進し、滞っている痰を追い出すのを助ける
当帰(とうき)…血を補い栄養を与える
生姜(しょうきょう)、大棗(たいそう)、甘草(かんぞう)…上記の諸薬の調和

◎適応
肺の熱による咳、黄色い痰、のどの痛み、口渇、顔面紅潮、頭痛、発熱、
舌質:紅 舌苔:黄

肺は熱が盛んになると呼吸に関わるはたらきが乱れ、咳や痰、咽の痛み等の症状が引き起こされます。
清肺湯の主薬は黄芩と山梔子。炎のように燃え上がる肺の熱を冷ますのが得意です。そして、この主薬をバックアップしてくれるのが、天門冬と麦門冬。肺を潤し、熱を冷ます主薬である黄芩と山梔子のはたらきを助けています。更に桑白皮、竹筎、貝母、桔梗も肺の熱を冷まし、熱にあぶられ煮こごった粘りの強い痰を切り、咳を鎮めてくれます。
「清肺湯」は、「肺の熱を冷ます」「肺を潤す」生薬達のチームワークで、ダメージを受けた肺をサポートしてくれる漢方薬といえるでしょう。

辛夷清肺湯~似て非なる“清肺湯”
「辛夷清肺湯」は、『外科正宗(げかせいそう)』で紹介されている処方です。この処方も名前の中にも‘清肺湯’という文字が入っています。やはり「肺」の熱を冷まして清める漢方薬ということが考えられますが、処方内容は清肺湯とは違っているようです。

◎生薬のはたらき
辛夷(しんい)…風邪を発散する
麦門冬、百合(びゃくごう)…肺を潤し、咳をしずめる
石膏(せっこう)、知母(ちも)…肺の熱を冷ます。
枇杷葉(びわよう)…肺の熱を冷まし、痰を取り除く
黄芩(おうごん)、山梔子(さんしし)…肺の熱を冷ます
升麻(しょうま)…風熱邪を発散する

◎適応
肺の熱による鼻づまり、鼻たけ、咳、黄色い痰、咽の痛み、口渇、頭痛
舌質:紅 舌苔:黄

辛夷清肺湯にも石膏、知母、黄芩、山梔子、枇杷葉など肺の熱を冷ます生薬や、麦門冬といった肺を潤す生薬が入っていますね。
しかし、この処方の主薬はなんといっても辛夷!処方名にも登場しています。辛夷はモクレン科のコブシの蕾で、鼻のつまりを通すのが得意です。辛夷のスーッとした揮発成分の香りも、肺の熱によって塞がれた鼻のつまりの解消に一役買っています。このようなことから、辛夷清肺湯は肺の熱によって起こる鼻づまりや慢性鼻炎、蓄膿症などに用いられることがわかります。

昨今、世界中で猛威をふるっている新型コロナウィルス感染症には「発熱が続く、咽の炎症、咳、だるさ」などの症状があり肺炎を誘発しやすいという特徴があります。
清肺湯は、炎症が慢性化し「肺」に熱が生じていることで「息が荒く咳が長引く」「痰が黄色く粘りスッキリ出ない」「痰が切れるまで激しくせき込む」「咳が長引き咽の痛みや腫れがある」といった場合に候補として考えられる処方です。

辛夷清肺湯も同じように「肺」の熱に用いられる漢方薬ではありますが、「黄色く粘る鼻汁、鼻づまり」など主に鼻に症状があらわれるケースに用いられる漢方薬と考えられます。

次回は飯田講師が担当します。回復期によく使われている「麦門冬湯」と「人参養栄湯」を紹介します。ぜひご覧ください。

山吹 育恵
山吹 育恵 - Ikue Yamabuki[薬日本堂漢方スクール講師・薬剤師]

東北医科薬科大学を卒業後、病院勤務を経て1990年薬日本堂入社。 2011年までニホンドウ漢方ブティック仙台トラストシティ店で店長を務めた後、20年の臨床経験を活かし、漢方スクールの講師と社内相談員の学術支援に携わる。大自然の力に魅せられ、自然農の考えに触れたことをきっかけに15年前より自らも農業を実践中。

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