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公開日:2020.05.14 20084view

漢方で見る感染症対策vol 9 麻黄湯と麻杏甘石湯

新型コロナウイルスをはじめとした感染症についてお伝えする「漢方で見る感染症対策」シリーズは今回が9回目、今までは如何に身体の抵抗力を上げて感染症を予防するか、感染症にかかった時にあらわれる症状の改善を促す養生方、そして前回は『傷寒論』などの書物を通して、感染症の歴史について、の話をしてきました。

今回からは、感染症に使うことの多い処方について話をしていきましょう。トップバッターの薬日本堂漢方スクール齋藤講師が、『傷寒論』の中の2つの処方を紹介します。麻杏甘石湯は、新型コロナウィルス感染症に用いられた「清肺排毒湯」にも配合されています。


麻黄湯と麻杏甘石湯~ボクたち兄弟!

今回、紹介する麻黄湯(まおうとう)と麻杏甘石湯(まきょうかんせきとう)は、兄弟ともいえる漢方薬です。どちらも紀元前200年頃に編纂された中国の医書『傷寒論(しょうかんろん)』に収載され、かぜの初期や咳など呼吸器の不調に用います。麻黄湯はインフルエンザに用いることで有名になりました。
まず、2つの処方構成を比べてみましょう。

麻黄湯
 麻黄(まおう)、桂皮(けいひ)、杏仁(きょうにん)、甘草(かんぞう)

麻杏甘石湯
 麻黄、石膏(せっこう)、杏仁、甘草

冒頭で兄弟と表現した理由、わかりましたか?どちらも4つの生薬で構成されており、そのうち3つが共通です。そこに温める桂皮を加えるか、冷やす石膏を加えるかで性質が真逆になります。熱血漢な兄である麻黄湯と、冷静沈着な弟の麻杏甘石湯と考えてもおもしろいですね。
それぞれの生薬にどのような特徴があるかみてみましょう。

麻黄
身体を温めて発汗、発散させる強い力があります。漢方では、かぜの初期や今回の新型コロナウイルス感染症のように、病気の原因が外界から体表を襲ってくる場合には発散させて解消すると考えるので、麻黄はうってつけです。加えて、呼吸を担っている肺の機能を助ける力もあります。これが主薬(主役)となって呼吸器の不調を改善します。世界アンチドーピング規定の禁止薬物なので、アスリートの方々は要注意です。

杏仁
あんずの種の中にある仁(にん)というもので、杏仁豆腐(あんにんどうふ)の香り成分といえば、ご存知の方も多いでしょう。麻黄と協力して咳を鎮めます。

甘草
甘い味が特徴で、多くの漢方薬に使用されています。漢方薬はさまざまな生薬を組み合わせて作られていますが、それらのまとめ役が甘草です。炎症を抑える働きもあり、食品や化粧品など幅広く用いられています。


兄弟の性格を決めるもの~桂皮と石膏
この3つが共通の麻黄湯と麻杏甘石湯は、呼吸器の不調による強い咳きこみに効果を発揮します。かぜの初期に起こる咳、さまざまな呼吸器の感染症で起こる咳、気管支炎や喘息でみられる咳などに対応します。
ただし漢方では、同じ咳でも体質や併発している症状によって対策は変わります。その違いに対応するのが桂皮と石膏です。

桂皮
皆さんがご存知のシナモンで、甘く刺激のある香りが特徴の生薬です。身体を温める力が強く、麻黄と協力して発散、発汗をうながします。

石膏
ギプスにも用いられる鉱物で、身体の熱をさます力があります。麻黄と一緒に用いることで、特に肺の熱をさまし、咳を止めます。


麻黄湯には麻黄と桂皮が配合されているので、かぜの初期にあらわれるぞくぞくとした寒気や関節痛などを解消します。今回の新型コロナウイルスに感染したかどうかわからない段階でも、強い寒気と頭痛、関節痛があり、汗をかいていなければ適用できます。

「温服後に布団をかけて適度に発汗させると効果は増す」と『傷寒論』に書かれています。ただし、汗をかきすぎると体力を消耗するので、虚弱な人や小児、高齢者は使用を控えます。もちろん、長期服用も避ける必要があります。

 麻杏甘石湯には麻黄と石膏が配合されているので、病名にかかわらず、口が渇き、黄色い痰がからんで強く咳き込み、ゼーゼーと呼吸が苦しいようなものに適用します。石膏は強く冷やすので、冷えて胃が痛む時や下痢傾向の方は注意が必要です。麻杏甘石湯がみつからない時は、麻杏甘石湯に痰を取る桑白皮(そうはくひ)を加えた五虎湯(ごことう)を用いるとよいでしょう。
 漢方薬は医薬品なので、使い方を間違えれば逆に不調を引き起こすので注意しましょう。

次回は原口先生の「銀翹散」「藿香正気散」についての話です。次回もぜひご覧ください。

齋藤 友香理
齋藤 友香理 - Yukari Saito[薬日本堂漢方スクール講師・薬剤師]

1969年北海道生まれ。東京理科大学薬学部卒業後、薬日本堂入社。10年以上臨床を経験し、平成20年4月までニホンドウ漢方ブティック青山で店長を務めていた。多くの女性と悩みを共有した実績を持つ。講師となった現在、薬日本堂漢方スクールで教壇に立つかたわら社員教育にも携わり、「養生を指導できる人材」の育成に励んでいる。分かりやすい解説と気さくな人柄で、幅広い年齢層から支持されている。

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