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2020.06.181063view

漢方で見る感染症対策vol 14 麦門冬湯と人参養栄湯

新型コロナウイルスをはじめとした感染症についてお伝えする「漢方で見る感染症対策」シリーズもいよいよ最終回です。今回は、感染症の回復期によいとされる「麦門冬湯(ばくもんどうとう)」「人参養栄湯(にんじんようえいとう)」を薬日本堂漢方スクールの飯田講師が紹介します。この二つは、普段から虚弱体質の改善にも用いられることの多い漢方薬です。


咳に繁用される 麦門冬湯 ~その使い方、正しいですか?
麦門冬湯は一般の薬局・ドラックストアで手に入る漢方薬で、医療用としても“咳に効く”として処方される機会が多いようです。私自身も好きな薬で、自宅の常備薬のひとつです。
身体への負担が比較的少ないのに効果が高いため繁用されているのだと思いますが、誤った使われ方をしていることも少なくないのが気になります。

麦門冬湯は『金匱要略』に登場する、肺痿(*注)、咳嗽上気(気管支炎や気管支喘息に類似する疾患)に対する処方です。
(*注)肺が慢性的に虚して咳や呼吸困難、痰が多いなどの症状があらわれる疾患

1.成分とはたらき
麦門冬(ばくもんどう):処方の主体であり、陰液を滋潤し、肺を潤すとともに肺にこもった熱を除きます。
人参(にんじん):気を補い、潤いを生み出します。
粳米(こうべい)・大棗(たいそう):粳米は玄米、大棗はナツメのことです。どちらも気を補う効果があります。
半夏(はんげ):肺の気の流れを整えて咳を鎮め、痰を乾かして除く働きがあります。
甘草(かんぞう):諸薬を調和させる働きの他、止咳、去痰、咽喉の痛みを和らげる効果もあります。

<構成生薬からわかる処方のポイント>
五臓六腑では肺と胃に作用し、気血水の観点では気と水を補います。つまり、肺や胃の余分な熱を取り除きながら潤す効果のある処方であることがわかります。人参、粳米、甘草といった補気薬が多く配合されていることも特徴です。

2.効能
滋陰肺胃(じいんはいい):肺と胃を潤します。
降逆下気(こうぎゃくげき):上がった気を下げます。咳は肺の気が上がった状態ですので、それを鎮めます。

3.適応
空咳、咽喉の乾燥、口の渇き、嘔吐など。

麦門冬湯は潤す性質が特徴です。肺は乾燥を嫌います。肺が熱をもって、水分が損なわれ、潤い不足の状態になると乾いた咳がでます。そのような状態に対して麦門冬湯は肺の熱を取り除き、潤しながら肺の気を補っていきます。ですから、“咳に効く”といっても、麦門冬湯が適用される咳は、空咳です。痰は無いか、あっても少量で粘りがあり切れにくい痰という場合です。
また、麦門冬湯は補気の効果もありますので、体力の低下によって咳が治らず長引いているような状態のときに使います。

コラム「漢方で見る感染症対策」シリーズでは咳に効く漢方薬がいくつか登場していますが、発病からの経過、咳や痰の状態などによって適用する処方が異なります。新型コロナウイルス感染症の場合、回復期であっても弁証をした上でより適切に使って頂きたいと思います。

最強の補剤!?人参養栄湯 ~十全大補湯との違い
高齢化社会における医療課題として、近年はフレイル(高齢者の虚弱)、サルコペニア(骨格筋委縮)などの言葉を耳にします。高齢者の虚弱は低栄養との関連が強いと考えられており、漢方でいうところの「気血両虚」にあたるため、「気血双補剤」である人参養栄湯が注目されています。

人参養栄湯は、宋の時代の『太平恵民和剤局方(たいへいけいみんわざいきょくほう)』に登場する、病後や産後の衰弱、肺病による咳、疲労倦怠、食欲不振などに対する処方です。

1.成分とはたらき
人参(にんじん)・黄耆(おうぎ):処方の主体であり、補気薬です。特に脾と肺の気を補います。
当帰(とうき)・芍薬(しゃくやく)・地黄(じおう):血を補います。
白朮(びゃくじゅつ)・茯苓(ぶくりょう):脾を助け、余分な水を除きます。
遠志(おんじ):精神を安定させます。
五味子(ごみし):肺の虚弱による長引く咳、精神安定などの効果があります。
桂皮(けいひ):身体を温めます。
陳皮(ちんぴ):気を巡らせ、胃腸を整えます。
甘草(かんぞう):諸薬の調和、止咳、去痰、咽喉の炎症による痛みを改善する働きがあります。

<構成生薬からわかる処方のポイント>
気血を養い、特に脾と肺を助けて元気を回復する他、精神を安定させたり、呼吸を助ける配合であることがわかります。

2.効能
益気養血(えっきようけつ):気と血を補います。
養心安神(ようしんあんじん):心を養い、精神を安定させます。

3.適応
病後・手術後の体力低下、気血不足による慢性的な疲労、食欲不振、不安感や不眠などがあるもの。疲労により呼吸が浅く咳が出るもの。


気血双補剤としては十全大補湯が有名です。実は人参養栄湯は十全大補湯から生薬をひとつ抜いて、遠志・五味子・陳皮を加えたものです。この3つの生薬が入ることで、鎮静、鎮咳、去痰、健胃などの作用があらわれます。

つまり、気血両虚による体力低下、倦怠感や食欲不振などの症状を改善したい場合に、気血双補剤である十全大補湯を使用する可能性があるわけですが、人参養栄湯では、先の症状のほか咳を鎮めて肺機能の回復をはかったり、精神不安を和らげるなどの効果がプラスで期待出来ます。

服用に際しての注意すべきことは、血を補う生薬は粘りがあるため、胃腸が弱い人では服用後に胃もたれ、お腹の張り、軟便などの症状が見られることです。その場合は病院や薬局等に相談し、食後に服用する、服用量を減らす、服用を中止するなどしましょう。


さて14回に渡ってお届けしてきた「漢方で見る感染症対策」は今回で終了です。漢方のことが少し身近に感じられるようになったでしょうか?今までも、そしてこれからも「漢方ライフ」は皆様の生活に役立つ情報を毎月発信してまいりますので、引き続きよろしくお願いいたします。

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飯田 勝恵 - Katsue Iida[薬剤師・薬日本堂漢方スクール講師]
飯田 勝恵 - Katsue Iida[薬剤師・薬日本堂漢方スクール講師]
静岡県立大学薬学部卒業。1998年薬日本堂入社。約10年間の臨床と店長を経験。店舗運営や相談員教育などに携わり、その後「自然・人・社会に役立つ漢方の考えをより多くの人に伝えたい」と講師として活動。薬だけではない漢方の思想や理論に惹かれ、気功や太極拳、瞑想なども生活に取り入れながら漢方・養生を実践している。

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