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公開日:2019.09.20 更新日:2020.05.154299view

見えないものを診て読み解く~経絡のおはなし

黄帝と一緒に『素問』を学ぶvol.7

一日に50周巡る?!

『素問』を読んでいると、黄帝と岐伯が自由に問答している様子が伺えます。というのも、八十一篇の中で自然、人体、病気のこと、陰陽、五行、臓腑、経絡のことが入り混じり、順不同で述べられているからです。
深く学びたい方は、訳文や原文を追って読み解いてみるのもよいでしょう。
でも『漢方ライフ』ではもう少し気楽に、「ほー、昔の人はそんな考え方をしたのか」「ふーん、漢方ではそんなことも診断できたのか」などと感じていただければよいと思っています。

今回紹介する「陰陽別論篇第七」では、経脈について黄帝と岐伯が問答しています。

ハリやお灸、ツボ療法でよく聞く経絡(けいらく)というものがあります。全身を網の目のように走る、気血の通り路と考えてみてください。これは体内の五臓六腑と体表をつなぐように、まず内外を貫きます。そして、頭部、体幹、手足の末端をつなぐように、上下を通しています。血管や神経とは違って目にみえない通路で、病気の診断や治療などに応用されています。

経絡には、縦に走る幹線である経脈(けいみゃく)と、全身を縦横無尽に走る分枝である絡脈(らくみゃく)があります。前回紹介した「陰陽離合論篇第六」の最後で岐伯は、「人体では毎日、陰陽の気が経脈の内外を規則正しく50周巡っている」と言っています。「50周ってどのように計ったんだ?!」という疑問はありますが、目に見えないものを感じ取る素晴らしい感性が古代の人々には備わっていたんだなあと感慨深くもあります。

この不思議な経脈は、手足にそれぞれ陰経3本【太陰(たいいん)、少陰(しょういん)、厥陰(けついん)】、陽経3本【太陽(たいよう)、陽明(ようめい)、少陽(しょうよう)】、合計で12本通っていると考えられています。これを十二正経(じゅうにせいけい)と呼んでいます。
黄帝が「篇第七」で岐伯に問うたのがこの十二正経についてです。

経絡を病気の診断・治療に活かす

経脈はそれぞれ五臓六腑に関連しているのですが、どこの経脈に異常があるかがわかると、不調の種類やどのような症状があらわれるかがわかるというのです。
たとえば、太陽経の異常が原因で病になると、発熱悪寒、足が冷えてこむらがえりが起こりやすくなるといいます。また少陽経の異常が原因で病になると、呼吸が浅くなって咳が出たり、下痢をしやすくなるといいます。陽明経と厥陰経の異常が原因の病では、精神的に驚きやすくなり、背中が痛んで、げっぷやあくびが出やすくなります。太陽経と太陰経の異常が原因の病では、半身不随や運動麻痺などが起こるといいます。

鍼灸の治療を受けたことがある方は体験済みだと思いますが、つらい症状があらわれている場所と全くかけ離れた場所にハリをうたれたり、灸をすえられたりします。これはどの経脈の異常なのかを診て、気血の流れに沿って治療を施すからなのです。

岐伯は経脈にあらわれる陰陽の詰まりについても話をしています。
陽明経で詰まると体内に熱を生じてのどが渇き、痩せてくる。太陽経で詰まると便通が悪くなる。太陰経で詰まるとむくみが生じ、厥陰経と少陽経で詰まるとのどが腫れて痛むと。
実は岐伯、ちょっと恐ろしいことも話しています。篇第七の最後は、「どことどこの臓腑の脈気がぶつかって働きが失われると、何日目に亡くなるよ」という文章が並んでいるのです。昔はそんな予告も必要だったのか…と複雑な気分になってしまいました。

何においても大切なのは、陰陽、気血のスムーズな流れです。鍼灸や按摩、気功、漢方薬、薬膳などのアイテムを駆使して自然と人を調和させることが、漢方養生の意義なのでしょう。

齋藤 友香理
齋藤 友香理 - Yukari Saito[薬日本堂漢方スクール講師・薬剤師]

1969年北海道生まれ。東京理科大学薬学部卒業後、薬日本堂入社。10年以上臨床を経験し、平成20年4月までニホンドウ漢方ブティック青山で店長を務めていた。多くの女性と悩みを共有した実績を持つ。講師となった現在、薬日本堂漢方スクールで教壇に立つかたわら社員教育にも携わり、「養生を指導できる人材」の育成に励んでいる。分かりやすい解説と気さくな人柄で、幅広い年齢層から支持されている。

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