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2016.01.01341view
『寝ぬ夜の夢』~江戸時代のSNSって?健康を伝える工夫とは。

古典DE養生 第8巻

「もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーのマネジメントを読んだら」という本が2010年話題になり、130万部を超えるベストセラーになりました。本屋に行くと、まんがでわかる「孫子の兵法」「7つの習慣」「アドラー心理学」などが平積みされています。

難しい理論や文章を、物語やマンガで伝えることによって、わかりやすく、また楽しく理解することが出来ますね。

江戸時代も文化・文政・天保期(1800年~1840年)になると書物の出版が盛んになります。庶民に親しみやすい形で伝えようと、和歌や物語形式で養生を説いたものが出てきます。

医師であった柳井三碩(やないさんせき)は、東海道の紀行文の形式とった養生書、「寝ぬ夜の夢」を出版しました。江戸庶民にとって、ようやく旅が手の届く行楽になってきた時期なので、養生と共に東海道五十三次の風俗・地理・歴史・名所の解説もしている本は、とても魅力的だったと思えます。

「寝ぬ夜の夢」は、三碩と仙翁(空想人物)が路上であい、東海道を共に紀行するという内容です。
三碩が医術や養生についての見解を述べ、仙翁が意見を問うという形式をとっています。

三碩:正徳の年ころ、貝原篤信翁といへる人養生訓を著して今世に流布す、されども其のをしへを守る人甚(はなはだ)稀なり、まゝまた能(よく)其(その)言(いう)所を守り、明暮(あけくれ)養ひに拘(こだ)はれる人却(かえり)て多くは多病をまぬかれず、是(これ)其説(そのせつ)の広く行はれざるべし、仙翁いかがおもひ給ふや

訳)正徳の年のころ、貝原益軒という人が「養生訓」を書き、今世間で広く読まれています。しかし、養生訓の教えは、わずらわしい事ばかりで、守っている人は稀である。また、それをこだわって守っている人がかえって多病を患っている。これは、なぜだと思いますか?
※貝原益軒については、Vol6、Vol7参照


仙翁:翁云(いわ)く、養生訓の術に拘(こだ)はれる人は枉(まげ)て是(これ)をなす枉てなす者は気屈(きくつ)してのびず、多病なるもむべなり、これ道に遊ぶことをしらずして、いたずらに術によって長生せんとおもふなり

訳)養生の「術」にこだわって無理してこれをしようとするから、かえって気が屈折してのびのびとせず多病となる。これは、「道」を楽しむことをしないで、「術」によってだけ長生きしようとしているからである。

短い言葉のやり取りの中に、養生の本質を鋭くついた会話になっていますね。

仙翁は他にも

・偶然100歳になった人の多くは、美食をしていないということだけではなく、その心中は無我であり意識せずに「道」に遊び、のびのびと愉しんでいる。
・「道」に遊ぶことは、その胸中に迷いがなく爽やかで、元気が鬱屈することもない。

などと論じています。

ここで言う
「道」とは、天命、人生、自然、心、本質 ・・・
「術」とは、方法、理論、技、・・・
等々、わざわざ他の言葉で置き換える必要もありませんが、いろいろな解釈が出来そうです。

私は、講義で「健康おたくの不養生」とよく言っています。こだわりすぎて、絶対にこうしなければならない!と自分に過度の制限をし、結果、健康を害していることです。思い込むあまりに、視野が狭くなり本質からズレてしまっている状態です。

視野を広く持ち、プラスマイナスゼロのバランスの取れた生活を心がける。
無理があって起こる故障が“病”と考え、修繕できるチャンスが与えられたと考える。
病気したおかげで、健康に注意するようになるから長生きができる。

このように考えられると、道を楽しみ、遊ぶことが出来そうですね。

「寝ぬ夜の夢」は、「此書は貝原翁の養生訓に本づきてかける也」と記されています。
柳井三碩は、養生訓を読んだ庶民が、養生法を試しにやってみて、効いた・効かないと会話をしているのを耳にし、嘆いていたのかも知れませんね。貝原益軒が仙翁に思えてしまいます。

鈴木 養平 - Youhei Suzuki
[ 薬日本堂漢方スクール講師・薬剤師]
1969年宮城県生まれ。東北薬科大学卒業薬学部卒業後、薬日本堂入社。臨床を経験し、店舗運営、教育、調剤、広報販促に携わる。札幌に勤務中、TVの漢方コーナーにてレギュラー出演。漢方薬による体質改善の指導・研究にあたる一方で、“漢方をより身近に”とセミナー講師・雑誌・本の監修(『おうちでできる漢方ごはん』『かんたん・おいしい薬膳レシピ』)で活躍中。薬日本堂漢方スクール:http://www.kampo-school.com/

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