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公開日:2025.06.21 更新日:2025.06.24128view

ムシムシして食欲が落ちてきたら~六君子湯

漢方薬のつぶやき vol.32

梅雨の食欲不振
湿度が高くなってくると体が重だるくなり、むくみやすくなります。この時季、食欲が落ちる、食べても美味しく感じない、食後に胃がもたれる、軟便気味など胃腸の不調を訴える人も増えます。

胃腸の不調は湿度と大いに関係しています。
湿度と胃腸の関係、そしてムシムシする梅雨に感じる胃腸の不調を改善する漢方薬のひとつ、六君子湯(りっくんしとう)についてお伝えします。

胃腸の働きは湿度に弱い
それぞれの季節には特徴となる気候があります。日本の夏は高温多湿といわれ、暑いだけでなく湿度も加わる「蒸し暑さ」が特徴。

気候はよくもわるくも体調に影響します。そよ風は気持ちよいけれど強風ではめまいや頭痛を引き起こします。温かさは安らぎますが暑いのは不快。空気が乾燥すると肌がカサカサしたり咽の痛みを生じやすいです。適度な潤いは欲しいけれど湿度が高すぎるとそれもまた不調の原因となります。

ムシムシ、ベタベタする湿度にもっとも影響を受ける内臓は脾(ひ)です。漢方では内臓の働きには5つの系統があると考えます。そのひとつ「脾」とは、簡単に言うと胃腸の働きのことです。
「湿は脾を傷(やぶ)る」といい、過剰な湿気は脾の働きを低下させます。つまり、湿度が高いと胃腸の不調が起こりやすいのです。

こんな症状に六君子湯
多湿な気候によって脾の働きが低下すると、消化・吸収・排泄の不調や水分代謝不良、そして疲労や倦怠感が起こります。
具体的には、食欲不振、美味しく感じない、胃もたれ、吐き気、軟便、下痢、疲れやすい、食後の眠気、手足がだるい、手足に力が入らない、むくみ、体が重だるいなどの症状です。

こういった症状に使われるのが六君子湯。

六君子湯と名前の似た漢方薬に四君子湯(しくんしとう)があります。四君子湯は六君子湯のベースとなる漢方薬で、脾を元気にする基本処方です。
人参(にんじん)、白朮(びゃくじゅつ)、茯苓(ぶくりょう)、甘草(かんぞう)の4つの生薬で構成され、それぞれ君子のように温和な生薬であることから名付けられたとされます。

日本の六君子湯は生薬8つ
本来4つの生薬から構成される四君子湯ですが、中国では家庭で煎じる際に生姜(しょうきょう)と大棗(たいそう)を加えていたそうです。日本では家庭に常備されているとは限らないのでこの2つの生薬をあらかじめ配合しています。

六君子湯は四君子湯に陳皮(ちんぴ)と半夏(はんげ)を加えた8つの生薬で構成されています。陳皮と半夏は気を巡らせて消化を促進するとともに、胃腸に停滞した余分な水を除きます。脾が嫌う湿気を取り除くことで、胃腸が働きやすいように助ける役割を担います。

四君子湯も六君子湯も、脾の虚弱に使われる処方ですが、日本では六君子湯を用いることが多いようです。その理由は湿度が高いという気候の影響もあると思います。
食欲不振、胃もたれに加えて、吐き気、軟便、むくみ、体が重だるい、めまいなどの水分代謝不良の症状があるときには六君子湯が適しています。

梅雨の不調は早めの対処を
ところで、脾の働きは簡単に言うと胃腸の働きだと述べましたが、ほかにも大切な仕事があります。飲食物を消化・吸収することで気(き)や血(けつ)といった生命活動に必要なエネルギーと栄養を作りだします。

つまり、脾が弱ってしまうと胃腸の不調が起こるだけでなく、長引けば気血も不足します。結果、疲れやすい、体力が落ちる、貧血、手足やお腹の冷えなどと不調が全身的に広がっていきます。そして、実はこれらの不調は夏に顕著になります。

梅雨に起こる脾の不調を放っておくと夏バテにもつながるので、早めの対処が肝腎。
気候がムシムシして食欲が落ちてきたら脾が疲れているサインと捉えましょう。

脾に負担がかからないように、食べる量を減らす、脂っこいものや味の濃いものを控えるなどして気をつけたいです。
養生で胃腸の調子が回復しないようなら、今回ご紹介した六君子湯を試していただくのもひとつの方法です。

脾の働きを改善する漢方薬は六君子湯のほかにもありますので、ご自身の症状と体質に合う漢方薬をお求めになりたい場合は漢方専門の薬局や医療機関に相談しましょう。



飯田 勝恵
飯田 勝恵 - Katsue Iida[薬剤師・薬日本堂漢方スクール講師]

静岡県立大学薬学部卒業。1998年薬日本堂入社。約10年間の臨床と店長を経験。店舗運営や相談員教育などに携わり、その後「自然・人・社会に役立つ漢方の考えをより多くの人に伝えたい」と講師として活動。薬だけではない漢方の思想や理論に惹かれ、気功や太極拳、瞑想なども生活に取り入れながら漢方・養生を実践している。

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