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公開日:2025.05.21 494view

乾燥したコロコロ便に~麻子仁丸

漢方薬のつぶやき vol.31

麻の種子と便秘
麻は茎・葉・実・根などあらゆる部位が活用できるとされる植物ですが、その種子は生薬としても使われます。生薬名「麻子仁(ましにん)」。
仁(にん)とは種子を指し、麻子仁のほか桃や杏の種子である桃仁(とうにん)、杏仁(きょうにん)も生薬です。これら種子は脂肪油を含むため、大腸を潤し排便を促進する効果をもちます。

麻子仁は便秘で使われる漢方薬、麻子仁丸(ましにんがん)の主薬。
漢方成分の便秘薬は種類や商品が多数ありますが、麻子仁丸はどんなタイプの便秘薬なのでしょうか。

便秘には5つのタイプがある
漢方の考え方では、便秘には次の5つのタイプがあります。
①食べすぎやストレスなどで大腸に熱がこもり、便が硬くなってしまった「熱タイプ」の便秘。
②体を構成する成分である気血水(きけつすい)のうち血(けつ)と水(すい)が不足して、腸内が乾燥し、便がコロコロになる「乾燥タイプ」の便秘。
③ストレスで気の巡りが滞り、お腹が張って苦しく、排便の間隔が乱れてしまう「気の滞りタイプ」の便秘。
④先天的に、あるいは過労や病気などで気が不足して蠕動運動が弱くなり、便を押し出せない「気不足タイプ」の便秘。
⑤体やお腹が冷えて気血の流れが滞り、腸がうまく動かずスッキリ出ない「冷えタイプ」の便秘。

こうしてみると、便秘の原因はいろいろありますね。漢方は原因に応じて対策をとりますので、5つのタイプそれぞれに適する漢方薬があります。

血・水の不足で大腸が乾燥
麻子仁を主薬とした麻子仁丸は、先ほどの5つのタイプのうち、②乾燥タイプに用いる漢方薬です。

消化管の内側は常に潤っていて正常です。潤っていることは消化や排泄という働きにとって必要なことですから、乾燥すると飲食の消化・吸収・排泄にとって大問題。

大腸の内側も潤いを保ちながら、水分の吸収が適切に行われ、正常な蠕動運動によって便が形成されて押し出されます。

大腸の潤いのもとは、体内の血と水。ですから、血や水が不足すると大腸の中も乾燥して便が硬くなり便秘を引き起こします。

乾燥体質の硬いコロコロ便
乾燥タイプの便秘は、体質的に血不足になりやすい女性や高齢者に多くみられます。
ご高齢の方の便秘相談では「ウサギの糞のようなコロコロした便」という表現をよく耳にします。硬くてコロコロした便は血不足の便秘の特徴です。
また、出産によって多量の血を消耗するため、産後の便秘も乾燥タイプであることが多いです。

このような、体質的に血不足の人の便秘に麻子仁丸は適しています。

なお、血不足の体質では、ふらつきや立ちくらみ、肌にツヤがなく乾燥、目の疲れ、かすみ目、こむらがえり、物忘れ、寝つきがわるい、眠りが浅い、月経が遅れる、経血が少ないなどの不調がみられます。

服用量を調節する
服用に際して注意点があります。便秘でお悩みといっても、数日出ない人もいれば、毎日出るけれど量が少なくてスッキリしないなど程度はさまざまですし、年齢や体力も異なります。

麻子仁丸には大腸を潤す成分である麻子仁のほか、大腸を刺激して便通をつける大黄(だいおう)という生薬も配合されています。
そのため、人によっては刺激が強いと軟便・下痢になることがあります。ですからまずは少ない量からスタートして排便の様子を確認しながら、自分に合った服用量を調節するようにしましょう。

最後に。乾燥タイプの便秘薬は麻子仁丸のほかにも種類があります。また、便秘のタイプによって用いる漢方薬は異なります。自分に合った漢方薬を服用したいときは漢方専門の薬局や医療機関に相談していただきたいと思います。

飯田 勝恵
飯田 勝恵 - Katsue Iida[薬剤師・薬日本堂漢方スクール講師]

静岡県立大学薬学部卒業。1998年薬日本堂入社。約10年間の臨床と店長を経験。店舗運営や相談員教育などに携わり、その後「自然・人・社会に役立つ漢方の考えをより多くの人に伝えたい」と講師として活動。薬だけではない漢方の思想や理論に惹かれ、気功や太極拳、瞑想なども生活に取り入れながら漢方・養生を実践している。

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