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公開日:2023.10.20 更新日:2024.02.022344view

肺をうるおし空咳に効く〜麦門冬湯

漢方薬のつぶやき vol.12

感染症で認知度アップ
道端に生えている草、ジャノヒゲ。その根の膨らんだ部分が麦門冬(バクモンドウ)という生薬になります。肺を潤し、乾いた咳とのどの乾燥に効果があります。
この麦門冬を主役とした漢方薬が麦門冬湯。

穏やかな生薬の組み合わせながら、空咳に対する効果は高い漢方薬です。
最近では、新型コロナウィルス感染症回復期の咳に使われることから、広く知られるようになりました。

そこで、麦門冬湯を適切に使っていただくためのポイントをお伝えします。

痰の少ない、乾いた咳に
まず知ってほしいのは、咳には種類があることです。
たとえば、「痰の多い咳」と「空咳」では性質が異なります。すると、治し方に違いがでてきます。
痰が多ければ、痰を取り除いて乾かします。空咳の場合は肺やのどが乾燥しているので潤します。
乾かすと潤すは逆の対処ですね。

麦門冬湯が適用になる咳は乾いた咳、いわゆる空咳です。
痰が多い咳に麦門冬湯は使いません。
痰は無いか、痰があるとしても少量で粘り気のある切れにくい痰です。

「痰の少ない、乾いた咳」であることは麦門冬湯を選ぶ大切なポイントです。



肺は乾燥を嫌い、潤いを好む
乾いた咳の原因は、肺の乾燥。
肺は乾燥を嫌い、潤いを好む臓です。乾燥しやすい秋冬には肺の潤い不足から空咳がでやすくなります。

麦門冬湯の効能には「痰の切れにくい咳、気管支炎、気管支ぜんそく」とありますが、気管支炎や喘息にとどまらず、乾燥する季節や環境によって起こる空咳にも使うことができます。

潤いと元気を補い、回復力を高める
麦門冬がリーダーの麦門冬湯。ほかの生薬の顔ぶれをみてみましょう。

人参・粳米(こうべい)・甘草・大棗。粳米は玄米のことです。
これらの生薬は胃腸を整えて、気を補い、潤いをあたえます。
半夏は麦門冬をサポートして咳を鎮めます。

これらのメンバーが協調してあらわれる効果は、空咳を鎮めるだけではありません。全身に気と潤いを養うことで、病後の体力回復をサポートします。
ですから、カゼ・インフルエンザ・新型コロナウィルス感染症などの回復期にも応用することができます。

感染症への応用と注意点
感染症により高熱を発すると、身体の水分が失われ、乾燥に弱い肺はダメージを受けます。
熱が下がったあとの回復期に空咳がでるのはこのためです。

このとき、麦門冬湯は肺と胃腸に潤いをあたえ元気を回復します。咳のほかに倦怠感や食欲不振にも効果が期待できます。

ただし、感染症のすべての咳に麦門冬湯を使うわけではありませんのでご注意ください。
感染症の初期、高熱や節々の痛みなどとともに起こる咳は麦門冬湯の適用ではありません。
感染症初期の咳と、回復期の咳は種類が異なることが多いからです。

高熱が下がり強い症状を脱し、回復に向かう段階で空咳が生じた際に麦門冬湯が使われます。


肺を潤し空咳を鎮め、胃腸に潤いと元気を養い、回復力を高める麦門冬湯。
穏やかな生薬構成ゆえに虚弱体質、高齢の方でも使いやすい漢方薬です。
今回お伝えしたポイントをおさえて上手に活用していただきたいと思います。

動画でも解説!コロナ感染症などで有名になった漢方薬。肺をうるおし空咳に効く、『麦門冬湯』


飯田 勝恵
飯田 勝恵 - Katsue Iida[薬剤師・薬日本堂漢方スクール講師]

静岡県立大学薬学部卒業。1998年薬日本堂入社。約10年間の臨床と店長を経験。店舗運営や相談員教育などに携わり、その後「自然・人・社会に役立つ漢方の考えをより多くの人に伝えたい」と講師として活動。薬だけではない漢方の思想や理論に惹かれ、気功や太極拳、瞑想なども生活に取り入れながら漢方・養生を実践している。

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