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公開日:2020.01.20 更新日:2020.05.012954view

いろんな説があるけれど…六腑ってなに?

黄帝と一緒に『素問』を学ぶvol.11

黄帝のすごいところは尋ねるところ

『素問』を読んでいて素直に思うのは、「いろんなことに疑問を持って岐伯に教えを乞う黄帝ってすごいなあ」ということです。もちろん、この書物が黄帝と岐伯の問答を通じて、世の中のさまざまなことをひも解くという形式をとっているからなのですが。
「五臓別論篇第十一」でも黄帝は、六腑やその他の腑についていろんな人に尋ねてみたのだけど答えが定かでないので教えて!と岐伯に問うています。

『素問』よりも後に成立したといわれる古代中国の医学書『難経(黄帝八十一難経)』では、内臓などの器官の大きさや容量を説明し計量解剖学の成果を伝えている箇所があります。古代の人々が人体のさまざまな部位に名前をつけて、機能を見出していることがここでも伺えます。現代医学の解剖学とは異なる考え方があるので、とてもおもしろいですね。

陰である奇恒(きこう)の腑、陽である五腑

岐伯曰く、「腑の中でも、脳・髄・骨・脈・胆・女子胞は形のあるものが充実している、つまり大地の気の化身といえる」として、他の腑と異なる例外の腑、すなわち奇恒の腑と表現しています。
脳や骨、その中身である髄は我々にもイメージができます。脈は脈管ともいいますが、血管と考えてもよいでしょう。胆は胆汁の貯蔵庫です。女子胞は初めて聞く方も多いと思いますが、子宮をイメージしていただければわかりやすいでしょうか。確かにどれも中身が充実してして、空っぽにできないものであることがわかります。
「大地の気の化身」と表現してわかる通り、陰陽の陰に属していることがイメージできます。

それに対して「胃・小腸・大腸・膀胱・三焦は物が入ってもすぐに出す、雲ができても雨として降らせて空っぽになる天と似通っているので、天の気の化身といえる」と表現しています。
我々が食べ物を食べると、口から食道を経て胃に送られます。ここで初歩的な消化を行って次の小腸に送ります。小腸では心身に有効な栄養やエネルギー、漢方でいうところの気血の素が吸収されます。そして不要なものは次へ送られます。
皆さんが物を飲食した後の不要物には、固形物と液体があります。固形物は大腸に移動して、ここで水分調整されて糟粕(そうはく)、大便として排泄されます。液体は膀胱に移動して尿、小便として排泄されます。三焦は蒸気のように気化された水分を全身に送っています。

胃・小腸・大腸・膀胱は飲食物の消化・吸収・排泄を担うもので、飲食物を変化させながら次へ送ります。日常で大切なのは、飲食物を規則正しく入れること、そして入れない時間を作ることです。そうしないと胃の張り、食欲不振、消化不良、排便・排尿の異常などが起こります。
古代の人々は、この飲食物の流れの中で体内にいる小人がそれぞれに役割を担っていると考えたようです。日本では江戸時代の末期に歌川国貞が『飲食養生鑑(いんしょくようじょうかがみ)』という錦絵を描いています。

画:歌川国貞『飲食養生鑑』より
作者 Kunisada (Daruma Magazine, No.68) [Public domain], ウィキメディア・コモンズより


これを見るにつけ、暴飲暴食や間断なく飲み食いすることで小人たちを過剰に働かせるブラック企業ならぬブラック体質になってはいけないなあと感じるのではないでしょうか。皆さんもぜひご自身の六腑で働く小人たちをいたわってあげてくださいね。

齋藤 友香理
齋藤 友香理 - Yukari Saito[薬日本堂漢方スクール講師・薬剤師]

1969年北海道生まれ。東京理科大学薬学部卒業後、薬日本堂入社。10年以上臨床を経験し、平成20年4月までニホンドウ漢方ブティック青山で店長を務めていた。多くの女性と悩みを共有した実績を持つ。講師となった現在、薬日本堂漢方スクールで教壇に立つかたわら社員教育にも携わり、「養生を指導できる人材」の育成に励んでいる。分かりやすい解説と気さくな人柄で、幅広い年齢層から支持されている。

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