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公開日:2025.11.07 242view

苦難を受け容れ成長機会とする~坎為水

易経の叡智を人育てや自己の成長に生かす~Vol.4

八卦の坎(☵)のイメージ
「坎(かん:☵)」は真ん中に陽爻(ようこう:⚊)、上下に陰爻(いんこう:⚋)が配されており、自然界における「水」を象徴します。
飲み水としても、作物を育てるにも、我々が生きていく上で欠かせない水。ひんやりと冷たく、万物を潤しながら下へ下へと流れていく水。無色透明で無味無臭、決まった形もなくて、だからこそ、何色にでも染まることができ、どんな器にも合わせて形を変えることができるのが水です。
坎は「土が欠ける」と書きます。土が欠けると穴や窪みとなります。穴や窪みは、人生における試練や苦難としてみることができます。


私自身、幼少の頃からずっと水泳をしていましたので、水にはとりわけ親しみがありますし、水に触れると心が落ち着きます。しかし一方では、競泳で0.1秒でも早く泳ぐために筋肉も呼吸も精神も追い込んでいたかつてのトレーニングや試合場面が想起され、なかなかタイムが縮まらないというスランプに陥って抜け出せなかったもどかしさや苦しさや、プレッシャーに押しつぶされそうになる感じを思い出すこともいまだにあります。私にとっては坎(かん:☵)のイメージはそこに通じるものがあります。

四大難卦の一つ
六十四卦の29番目、坎(☵)が二つ重なった「坎為水(かんいすい)」の卦は、「水雷屯(すいらいちゅん)」「水山蹇(すいざんけん)」「沢水困(たくすいこん)」と併せて、易における四大難卦とされます。
難卦、と聞くと、易占いの結果としてもネガティブな印象がついてしまうかもしれません。仕事や学業や人間関係など、いま気になっているテーマについて、思うようにいかないのではないか、と。

四大難卦はいずれの卦にも水=坎(☵)が入っています。なぜ、命の源である水が、苦難を表す穴や窪みの象徴なのでしょうか。
古代に目を向けると、世界四大文明はいずれも河川の流域に発生しており、古代中国においても、肥沃な土地で農作物を育てるのに適する黄河や長江の流域に文明が栄えました。「水」は生きていく上で欠かせない存在です。
その一方、大雨などにより河川は氾濫もします。人々を飲み込む激しい濁流は自然の驚異そのものです。現代においても津波や水難事故など、水という物質の自然界でのふるまい、その脅威はすぐに思い浮かびますし、古代においてはなおのこと。水は恐ろしい存在でもあり、引きずり込まれる恐怖を感じるものでもあるのです。


苦難の先にこそ成長がある
古代社会において河川の氾濫や洪水といった試練を乗り越えるために治水の技術が発達したように、苦難は成長発展にもつながります。危機や不安など何事もない穏やかな環境は心地よく、すべてがうまくいくような順風満帆な日々は機嫌よく過ごせるかもしれません。しかしそこには工夫や成長のチャンスは生まれにくい。
人は苦難という窪みに陥ってはじめて、そこから抜け出そうと試行錯誤し、懸命にもがき、耐え忍ぶことを重ね、その先にようやく、苦難の克服によって鋭さやたくましさ、優しさを身につけるのだと思います。

苦難に遭うことは、一見すると不幸のように思われますが、見方を変えれば、成長の機会だと捉えることもできます。
我が子が苦難に陥った時、居ても立っても居られない、ついつい手を出したくなるのが親の性だと思います。ですが、親の力で解決に導いてしまうことは、その子の成長機会を奪うことにもなりかねません。「この子ならできる」と信じて見守ること、そして、本人にも自分自身を信じて工夫や努力を続けるように促してやることこそが、真に我が子のためになるのではないでしょうか。
「若いうちの苦労は買ってでもせよ」と言いますが、挫折を知り、それを克服しようと繰り返しもがいた経験は後々の糧となり、さらなる困難にも立ち向かえる力となるでしょう。

我が家の長女はこの秋から、日本を離れて友人も知り合いもいない台湾の大学に留学していきました。親として内心では、離れて暮らすさみしさや心配な気持ちなど様々な想いが交錯しつつも、彼女なら新しい環境での様々な試練を乗り越えられるであろうと信じて、数年後の帰りを待ちつつ、海を越えた地に想いを馳せる日々です(といっても現代は便利なことにLINE等SNSで頻繁に連絡できてしまいますが(笑))。

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林 美穂
林 美穂 - Miho Lin

[ニホンドウ漢方ブティック 梅田阪神店 上級相談員・薬日本堂漢方スクール講師]
お茶の水女子大学文教育学部卒業。中国人の夫との国際結婚をきっかけに、中医である義祖父の影響で東洋医学や薬食同源の考え方に出逢う。2011年に薬日本堂入社。相談員として臨床経験を積み、2020年までカガエ カンポウ ブティック京都河原町店の店長を勤め、京都の老舗料亭やホテルでの漢方セミナーも複数開催。現在は二ホンドウ漢方ブティック梅田阪神店にて上級相談員として女性のさまざまなお悩みに向き合いながら、漢方スクール大阪校にて講師を務める。四児の母。

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