漢方ライフ読む(コラム一覧) > 汗かきで疲れやすい~防己黄耆湯
公開日:2025.07.21 587view

汗かきで疲れやすい~防己黄耆湯

漢方薬のつぶやき vol.33

汗の機能と異常な汗
発汗には体温の調節、皮膚を潤す、老廃物を発散するなどの作用があり、正常な発汗は大切な生理機能です。
活動、辛いものの飲食、気候の暑さ、厚着、精神的緊張などによる発汗は生理現象、つまり正常な汗です。しかし、体質の偏りや体調不良があると、汗が出るはずなのに出ない、あるいは汗が出るはずがないのに汗が多いといった不調が起こります。

暑い季節に一層気になる汗。
今回は多汗のお悩みに使われる漢方薬のひとつ、防己黄耆湯(ぼういおうぎとう)を紹介します。

気不足による多汗
気血水(きけつすい)の考え方では、汗は「水」に属します。汗は必要なときに出て、必要のないときは出ないようになっていますが、この分泌を管理しているのは「気」。
「発汗を促す」ことと、「汗が出すぎないように止める」ことは逆の働きのように見えますが、どちらも気の働きなのです。

気は陽に、水は陰に属します。漢方では「陰と陽、加わりて汗を為す」 といわれ、汗の異常は陰陽バランスの崩れと考えます。

さまざまある多汗の原因、その中に気不足と水の滞りが挙げられます。

それほど暑いわけでもなく、激しく動いたわけでもないのに汗が出て困る、という声を聞きます。このタイプは気不足の多汗です。気が不足しているために汗が漏れ出てしまいます。
さらに、水分代謝がよくないと体内に余分な水が停滞して、汗はよりひどくなります。

今回紹介する防己黄耆湯は、気不足の多汗に使われる代表的な漢方薬です。

体力はあまりなく、疲れやすい、汗をかきやすい、寒気を感じてカゼをひきやすい、体が重だるい、尿量が少なく、下半身がむくむといった体質に適しています。いわゆる水太りタイプの肥満症、肥満に伴う関節の腫れや痛みにも用いられます。

生薬のはたらきと構成
防已黄耆湯には6つの生薬が配合されています。それぞれの生薬の効能は次の通りです。

防已(ぼうい):余分な水を除き、むくみや関節痛を改善。
黄耆(おうぎ):気を補うとともに、汗が漏れ出るのを防ぐ。余分な水を除く。
白朮(びゃくじゅつ):気を補う。余分な水を除く。汗を止める。
生姜(しょうきょう)、大棗(たいそう)、甘草(かんぞう):胃腸を元気に。全体の調和。

これら生薬が連携して、元気を養い、気不足によって汗が漏れ出るのを防ぎます。また、水の巡りをよくして、汗の大元である余分な水を除きます。
こうして防己黄耆湯は、疲れやすく、むくみやすい人の多汗を改善します。

多汗の原因はいろいろ
今回は気不足の汗かきについてお伝えしましたが、多汗の原因と種類はいくつかあります。ほかには、更年期に多くみられる、のぼせて発汗するタイプ。食べ過ぎ飲み過ぎの傾向があって暑がり体質の多汗。精神的ストレスや緊張がきっかけとなる発汗。日中は大丈夫だけれど寝ているときにかく寝汗など。

多汗のお悩みでは汗の量、汗の出る部位、汗をかく時間、汗のにおい、随伴症状などを確認し、体質・体調も併せて適した漢方薬を用います。

汗が気になる方は漢方専門の薬局や医療機関に相談して、ご自身の症状・体質に合った漢方薬を服用されることをお勧めします。

飯田 勝恵
飯田 勝恵 - Katsue Iida[薬剤師・薬日本堂漢方スクール講師]

静岡県立大学薬学部卒業。1998年薬日本堂入社。約10年間の臨床と店長を経験。店舗運営や相談員教育などに携わり、その後「自然・人・社会に役立つ漢方の考えをより多くの人に伝えたい」と講師として活動。薬だけではない漢方の思想や理論に惹かれ、気功や太極拳、瞑想なども生活に取り入れながら漢方・養生を実践している。

漢方スクールでの担当コース・セミナーはこちら

 

この記事が気に入ったら
いいね!しよう

最新情報をお届けします

ページトップへ