漢方ライフ読む(コラム一覧) > 成長発展への段階を一つ一つ踏もう~乾為天
公開日:2025.07.07 162view

成長発展への段階を一つ一つ踏もう~乾為天

易経の叡智を人育てや自己の成長に生かす~Vol.2

八卦の乾(☰)のイメージ
八卦のうちの一つ、「乾(けん:☰)」は自然界における「天」を象徴します。
「天」というと、皆さんはどのようなイメージを抱くでしょうか。空、自然、天候、気象、宇宙、太陽、神、父性、偉大さ、寛大さなど、人によって様々な自然現象や概念が浮かぶかと思います。その、なんとも超越的で頼もしい天は、地球上に立つ我々人間の視点からでは常に見上げる存在で、上へ上へ上昇していきたいという、成長発展を志向する気持ちを高めてくれます。

乾は陽爻(ようこう)(⚊)を下から三つ積み上げた形になっており、エネルギーや積極性に満ち溢れた力強さを感じます。
陰陽論を学び、易経に親しむにつれ、様々なイメージがわいてくるようになり、占いの際にこの八卦の乾、すなわち「☰」を見ただけで、気持ちが鼓舞され、自らに実行力や積極性が備わるような気になってくるから不思議です。

時に中る
六十四卦の一番目、天(☰)が二つ重なった乾為天の卦において、陽爻の一つ一つに付された爻辞(こうじ:爻の解説)で綴られるのは、龍の成長の物語です。人がまったくの無名の状態から立身出世し、やがて第一線から退いていく過程を龍の一生になぞらえています。

初めの段階(初爻:最下段の爻)では、まだどこにも名前すら知られていない、可能性は無限に秘めていても未だ何者でもなく何もできない「潜龍」であったのが、素直にひたむきに師を見て真似て学ぶ姿勢に徹する「見龍」、だんだんと頭角を現してもなお慎重に努力を重ねていき、ようやく才能を開花させ大空高く翔ける「飛龍」となってからも、驕ることなく謙虚でいることが大切である、という教えです。

周りに流されることなく、その時その時に自分のやるべきことをきちんとやり遂げていく。これを「時に中る」「時中」と言います。
成功までの過程を一つ一つ堅固に積み重ねてこそ、自分の個性や才能を発揮し、恵みの雨を降らせる雲を従えて空を舞う龍のように、人々を幸せにし、自分に与えられた役目を果たし、いのちを活かしきることができるのです。

5月5日のこどもの日(端午の節句)に向けて鯉のぼりを飾る風習がありますね。これはこどもの立身出世を願ってのこと。青空を気持ちよさそうに泳ぐ鯉に、滝を流れに逆らって力強く登り、龍となって天に向かい空高く昇っていくさまを重ねています。

いのちのはじまりの力強さ
これから成長していくためのエネルギーをぎゅっと内包して生まれ出てきた、「純陽(純粋な陽)」の存在である赤ちゃん。最初はただ横たわるばかりだったのが、やがて首がすわって寝返りを打ち、頭をおこして、四つ這いのはいはいから立ち上がってつたい歩きへ、といった具合に、成長に伴って赤ちゃんの目線は上へ上へと、どんどん上昇していきます。

目に見えるものすべてが新鮮で、好奇心いっぱいの赤ちゃんは、見える景色が変わっていくその過程を、朗らかに味わい楽しんでいるように見えます。初めて寝返りを打つ場面や初めて立ち上がろうという場面での、ただひたすらにその瞬間に集中し、そしてきっちりとやり遂げるあの純粋さと力強さ。私も、その当時の我が子の目の輝きが今でも鮮明に脳裏に焼き付いています。

赤ちゃんは、寝返りを打つ前に立ち上がって歩き出す、ということはないですよね。親目線では「うちの子は、はいはいをあまりせずに、すぐに立って歩けたわ!」とか「うちの子は同じ月齢のよその子と比べてつかまり立ちが遅い…」などと、ついつい比較をしてその違いや差にとらわれがちですが、それぞれの過程をとばすことなく、各自のペースでその時その時にやるべきことを遂行し、きちんと積み上げていくことが肝心なのだと、乾為天の卦は教えてくれます。
ピアノなどの楽器の演奏や、野球などのスポーツにおいても、基礎からしっかり積み上げることで素晴らしいパフォーマンスが生まれます。現代はスピードや効率が求められる時代なので、人と比べてついつい「我先に」と焦りがちですが、そんな時代にあっても、一つ一つの過程を大切に着実に積み重ねることこそが、結局は物事の達成や成功への一番の近道なのだということを深く認識し、ご自身でも実行し、またその背中を見せることで、お子さんにもしっかり伝えてあげてくださいね。

関連ワード
易占 占い
林 美穂
林 美穂 - Miho Lin

[ニホンドウ漢方ブティック 梅田阪神店 上級相談員・薬日本堂漢方スクール講師]
お茶の水女子大学文教育学部卒業。中国人の夫との国際結婚をきっかけに、中医である義祖父の影響で東洋医学や薬食同源の考え方に出逢う。2011年に薬日本堂入社。相談員として臨床経験を積み、2020年までカガエ カンポウ ブティック京都河原町店の店長を勤め、京都の老舗料亭やホテルでの漢方セミナーも複数開催。現在は二ホンドウ漢方ブティック梅田阪神店にて上級相談員として女性のさまざまなお悩みに向き合いながら、漢方スクール大阪校にて講師を務める。四児の母。

ニホンドウ漢方ブティック梅田阪神店

薬日本堂漢方スクール

漢方スクールでの担当コース・セミナーはこちら

この記事が気に入ったら
いいね!しよう

最新情報をお届けします

ページトップへ