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公開日:2024.02.20 更新日:2024.03.201500view

精神不安・不眠症に〜加味帰脾湯

漢方薬のつぶやき vol.16

自律神経や婦人科症状にも

ドラッグストアでよく見かける漢方薬、加味帰脾湯(かみきひとう)は、精神不安や不眠症の漢方薬として知られています。
しかしその効能は幅広く、精神不調のほか、慢性疲労、めまい、動悸、貧血、食欲不振や胃腸病など原因が特定できないいわゆる自律神経失調症、さらには月経不順や不正出血など婦人科症状にも使われます。

効能の範囲が広すぎてつかみどころのない印象もある加味帰脾湯について、適切に効果的に用いるためのポイントをお伝えします。

加味帰脾湯の3つの特徴

生薬の構成からみると加味帰脾湯の効能には次の3つの特徴があります。
①気血(きけつ)を補う。
②胃腸をサポート。
③精神安定。

まず、加味帰脾湯は気血を補う代表的な漢方薬です。
気血とはエネルギーや栄養のことですから、簡単にいうと気力・体力を養い、疲労回復や虚弱体質の改善が期待できます。

2つめに、胃腸の働きを助ける作用があります。気血は主に飲食から胃腸の働きによって作られます。胃腸が元気になることは、結果として気血をつくりだすことにもつながります。

漢方では精神を安定させる効果を「安神(あんじん)作用」といいます。加味帰脾湯には、安神作用の生薬がいくつか配合されており、これによって精神不安や不眠に効果を発揮します。

精神トラブルの陰陽タイプ
ところで、漢方では精神や情緒のトラブルには大きく2つのタイプがあると考えます。この2つは陰陽のタイプともいえます。

イライラしやすく、怒りっぽい、目が冴えて寝つけない、気が高ぶって眠くならないなどの状態は陽タイプです。
陽タイプは気の滞りが原因なので、気を巡らせて治します。

気が沈む、意欲がわかない、不安感が強い、疲れているのに眠れない、眠りが浅いなどの状態は陰タイプです。
陰タイプは気血の不足が原因ですので、気血を補うことで改善します。

加味帰脾湯は気血を補いながら、精神を安定させるので、陰タイプの精神トラブルに適します。

十全大補湯とのちがい
慢性疲労や虚弱体質は、気血の不足が主な原因です。

気血を補うといえば、有名な漢方薬に十全大補湯(じゅうぜんだいほとう)があります。漢方スクールで漢方薬の授業をしていると、十全大補湯と加味帰脾湯の違いについてよく質問を受けます。

違いは、前述した3つの特徴のうち②③です。
どちらの漢方薬も気血を補いますが、加味帰脾湯はより胃腸にやさしく、胃腸の弱い人でも負担なく服用できる生薬配合となっています。また、精神安定の働きがあります。

実は、慢性疲労や虚弱体質は、胃腸が弱いために気血をつくりだせずに生じていることが多いです。

普段から胃腸が弱く、食欲がない、あるいは食べてもなかなか体力がつかない体質の人の、慢性疲労、疲れから起こるめまいや動悸、精神不安や不眠症には十全大補湯よりも加味帰脾湯の方がより適しています。

様々な症状に使われる加味帰脾湯ですが、3つの特徴をおさえて、適切に効果的に用いる参考にしていただければと思います。




動画で!自律神経失調症や不眠症、体力の回復などに使われる漢方薬 精神不安・不眠症に~加味帰脾湯


飯田 勝恵
飯田 勝恵 - Katsue Iida[薬剤師・薬日本堂漢方スクール講師]

静岡県立大学薬学部卒業。1998年薬日本堂入社。約10年間の臨床と店長を経験。店舗運営や相談員教育などに携わり、その後「自然・人・社会に役立つ漢方の考えをより多くの人に伝えたい」と講師として活動。薬だけではない漢方の思想や理論に惹かれ、気功や太極拳、瞑想なども生活に取り入れながら漢方・養生を実践している。

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