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公開日:2023.04.20 更新日:2024.01.102161view

心のびやか、身体ゆったり ~加味逍遙散

漢方薬のつぶやき vol.6

春は逍遥
逍遥とは、そこここを気ままにぶらぶらと歩く。心を遊ばせ、悠々自適に楽しむことです。

中国の古典には、春の過ごし方について次のように表現されています。

朝は早く起きてゆるやかに庭を歩く。髪はほどき、着物はゆるめてゆったりとする。
身体的には激しい労働をすることなく、精神的には冬の間にあたためておいた想いを起こし志を育てる。すべてをゆったりとのびのびさせておく。

現代の日本で生きる私たちにとっては、そんなにのんびりと過ごしてはいられないと思ってしまいます。春は年度替わりで、生活の変化と新しい環境への適用で慌ただしく、緊張する場面も多い季節です。

しかし、木々がぐんぐん生長して枝葉をのびやかに広げていく春は、人もそのような心身の使い方をすべきであり、けっして押さえつけたり、芽を摘み取ったりすることのないように過ごすのが、春の天地の気に相応する、つまり春の自然な過ごし方です。

逍遥散の3つの効果
気持ちをのびやかに、身体はゆったりリラックスする、そんな状態に導く漢方薬が「逍遙散」です。
服用すれば、心が晴ればれして自由に広々と羽ばたくようになることから、中国の古典『荘子』の逍遥遊篇にちなんで名づけられました。

逍遥散は身体に対して主に3つの効果があります。

ひとつ、気を巡らせて感情を整えます。
精神的ストレスを感じて鬱々としている気分を改善します。

ふたつ、血流を改善します。
栄養である血(けつ)を補い、巡らせる効果があります。

そして、胃腸のはたらきを応援して元気を補います。

逍遥散は、忙しさや緊張によって気力体力を消耗し、少し弱ってしまっている人に向いています。栄養でありエネルギーである気血(きけつ)を補い元気を回復すると同時に、滞っている気を巡らせて鬱々とする気分を改善します。

自分のペースを取り戻す、加味逍遙散
日本でもっとも服用されている漢方薬のひとつ「加味逍遙散」は、逍遥散に2つの生薬をプラスしたものです。
余談ですが、“加味”とは薬味(生薬)を加えたという意味です。

プラスした生薬のはたらきは「クールダウン」。
イライラしやすく、少しの出来事で怒ってしまうような、神経の高ぶりを鎮めます。

自分の体力を超える活動をしていたり、自分のペースで動いていない、つまり周囲に合わせて無理をしているときに心が不安定になります。
加味逍遙散は春の自然な過ごし方である「すべてをゆったりとのびのびさせて、自分のペースで想いを行動に移す」サポートになります。

女性の心身を整える
女性専用の漢方薬と勘違いされるほど女性の不調によく使われる加味逍遙散。
その理由は、先ほど書いた「3つの作用+クールダウン」効果にあります。

漢方では、女性の一生は血(けつ)が主となるとされています。
初潮が始まり、毎月の月経、人によっては妊娠・出産・授乳を経験し、閉経、更年期。この間大切なのは、血(けつ)が充足して滞りなく流れることです。

女性の一生、それぞれの場面においてあらわれる不調に、加味逍遙散は「3つの作用+クールダウン」効果で心身のバランスを整えます。
女性が“女性の身体の特徴”を知ると、もっと上手に自分を労わることが出来ると思います。

最後に、「3つの作用+クールダウン」は、漢方薬を使わなくても養生で出来ます。
春は緑の景色やお花を楽しみながら、心のびやか、身体ゆったりと散歩に出かけましょう。


婦人科疾患、女性の不調に繁用される婦人科3大漢方薬「加味逍遙散」「当帰芍薬散」「桂枝茯苓丸」


飯田 勝恵
飯田 勝恵 - Katsue Iida[薬剤師・薬日本堂漢方スクール講師]

静岡県立大学薬学部卒業。1998年薬日本堂入社。約10年間の臨床と店長を経験。店舗運営や相談員教育などに携わり、その後「自然・人・社会に役立つ漢方の考えをより多くの人に伝えたい」と講師として活動。薬だけではない漢方の思想や理論に惹かれ、気功や太極拳、瞑想なども生活に取り入れながら漢方・養生を実践している。

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