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公開日:2020.08.20 更新日:2020.08.205365view

天体の動き、月の満ち欠けが治療方針に関わる不思議

黄帝と一緒に『素問』を学ぶvol.18

鍼治療の心得が道の究め方に通じる?
黄帝と岐伯の問答で成り立っている『黄帝内経』には、鍼の治療に関する記述が多くみられます。鍼灸について学んでいないとさっぱりわからないという部分もありますが、逆に、漢方の根底に流れている普遍的な自然哲学に当たることもあります。

「宝命全形論篇第二十五」に、施術するものの心得のような項目が5つ書かれています。
1)精神を安定させる
2)自ら、患者の基準になるような養生法にかなった生活をする
3)薬物の性質を知る
4)鍼など道具の規格を整える
5)臓腑、気血の状態を正しく診断する方法を知る

これは鍼灸の施術者だけに必要なことではなく、全ての治療者に言えることで、さらに自分の身を守るという点では、全ての人が知っていて損はないことだと思われます。もっと広げると、何かの道を究めようとする人にとって必要なことでもあるようです。

1と2は、自分をベストな状態に保つことに通じます。3から5は、自分が使う道具や向き合うものの状態を正しく知ることが重要だと言っています。
この普遍性が、『黄帝内経』が難しい、でもおもしろいと思える理由のひとつかもしれません。

日差しと気温が血流を左右する!
「八正神明論篇第二十六」では、治療の際に、自然界の気が人体に与える影響を見定めることの重要性が書かれています。

私たちは自然の中に生かされています。自然を大宇宙とすると、人体は小宇宙と言えるでしょう。自然を観察して、現在の自分の状態を知り、治療にも役立てようということです。皆さんの生活にも役立つことなので、ご紹介しましょう。

まず、暖かく日がよく照っている時は、血が豊かに流れ、身体を守る力も十分に発揮されます。鍼治療でも、気血が動きやすいので効果も出やすくなるようです。逆に日が陰って寒い時は、身体は縮こまり、血の流れも悪くなります。このような時は、気血の動きが鈍るので、慎重に治療すべきだと書かれています。
暖かく日が差している時は、思いっきり活動してよいけれど、日が陰って寒い時は、いきなり活動せず準備運動が必要だと言えばイメージできるでしょうか。

新月と満月の治療方針
月の満ち欠けも身体に影響を及ぼすと考えられています。古代の人々は、自然を観察し、身体の状態に当てはめて対策を考えたのです。

満月では、気血が充実して、肉体が堅く引き締まります。新月では、気血の動きが鋭くなり、体表を守る力も巡りやすいと考えます。

満月の時は、さまざまなものが満ちているので、不足を補うような治療法は不向きです。補いすぎると気血が浮き上がってあふれ、鬱血や気分のつまりが生じます。たまっているものを流し巡らせる方法が必要になります。
新月の時は、さまざまなものが動いているので、気血などを強く動かすような治療法は不向きです。動かしすぎると、エネルギーである気が消耗し、臓腑が弱ってしまいます。

これをどうやって応用するのか。例えば、ダイエットをしたい人がいたとしましょう。満月の頃は蓄えて充実する傾向があるので、なかなか体重が落ちません。逆に新月の頃は、循環がよいので体重が落としやすいかもしれません。

人と自然の関りの不思議。夜空を眺めながら、思いを馳せてみませんか。


齋藤 友香理
齋藤 友香理 - Yukari Saito[薬日本堂漢方スクール講師・薬剤師]

1969年北海道生まれ。東京理科大学薬学部卒業後、薬日本堂入社。10年以上臨床を経験し、平成20年4月までニホンドウ漢方ブティック青山で店長を務めていた。多くの女性と悩みを共有した実績を持つ。講師となった現在、薬日本堂漢方スクールで教壇に立つかたわら社員教育にも携わり、「養生を指導できる人材」の育成に励んでいる。分かりやすい解説と気さくな人柄で、幅広い年齢層から支持されている。

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