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公開日:2025.09.21 更新日:2025.09.21491view

胃炎・胃もたれ・吐き気~半夏瀉心湯

漢方薬のつぶやき vol.35

胃もたれ、胸やけ、げっぷ、なんとなく胃が重たくて、吐き気がする。
そんな胃がスッキリしないときに半夏瀉心湯(はんげしゃしんとう)という漢方薬が使われます。

急性・慢性胃炎、神経性胃炎、逆流性食道炎などの消化器系の症状や、口内炎、二日酔いなど日常の胃腸トラブルにも応用されます。

処方名の由来と効果
半夏瀉心湯の半夏(はんげ)は生薬名です。サトイモ科カラスビシャクの塊茎。痰を取り除く、吐き気を止める、胃のつかえをとるなどの効能をもちます。
嘔吐の改善には欠かせない生薬で「止嘔の要薬」とも呼ばれます。

瀉心(しゃしん)の「瀉」は邪気を取り除くという意味。「心」は漢方用語の「心下部」つまり胃部をさします。
瀉心とは、邪気を除いて胃部のつかえを解消するという意味です。

配合生薬と役割は次の通り。
半夏(はんげ):嘔吐を治す
乾姜(かんきょう):お腹を温めて吐き気や下痢を改善
黄連(おうれん)、黄芩(おうごん):胃の熱をとる
人参、大棗(たいそう)、甘草(かんぞう):胃腸の機能を回復させる

半夏瀉心湯は半夏を主薬とし、胃部の邪気を除いて胃のはたらきを改善する漢方薬です。

「胃の気」は下へ流れて正常
胃もたれ、胸やけ、げっぷ、吐き気。こういった症状は気の流れが滞ることで起こります。
私たちの体は、飲食すると自動で消化・吸収・排泄してくれます。これには漢方でいう「気」の流れが大いに関係しています。

体の各臓腑には気の流れる方向があり、胃の場合は気が下へ流れることで消化が進みます。当たり前のようでいて実はとても大切なことなのです。

「胃の気」が流れにくくなると食欲不振となり、胃がつかえて張ったような不快感や胸やけを生じます。
停滞した気が上へと逆流することもあり、それがげっぷや吐き気となります。

半夏瀉心湯は「胃の気」の流れを正常に整えることで、胃のつかえや吐き気を改善します。

胃の過労状態
急性・慢性胃炎、神経性胃炎、逆流性食道炎といわれるような消化器系疾患も、よく観察すると初期には胃のつかえた感じ、胃もたれ、胸やけ、吐き気などの不調があらわれていると思います。こういった症状は胃からのサインです。

胃腸のはたらきは、さまざまな要素に影響を受けます。
暑さ・寒さ・湿気などの気候、疲労、寝不足、強いストレスなど。これらの要素によって胃腸のはたらきは低下するわけですが、そこへ食べ過ぎ・飲み過ぎ、消化の悪いものの飲食、食べてすぐ寝るなど不適切な食生活が重なると胃への負担が増大します。
いわば胃の過労状態です。

すると「胃の気」は停滞します。症状は体からのサイン。胃が発するサインをキャッチしたら、飲食の量を減らす、消化のよいものを食べる、夕食は早め少なめにするなどして胃の負担を軽くしてあげましょう。

適用症状と注意点
半夏瀉心湯の効能は次のようにあらわされます。
「みぞおちが痞え、ときに悪心・嘔吐があり、食欲不振で腹がゴロゴロとなって、軟便・下痢傾向のある状態。急性・慢性胃炎、神経性胃炎、逆流性食道炎、胃もたれ、胸やけ、げっぷ、口内炎、二日酔い」

胃の気が停滞して下腹部にも影響すると、軟便や下痢が起こることがあります。また、気の停滞から胃に熱がこもると口内炎が出ることも。
半夏瀉心湯は、胃の過労から起こる軟便・下痢、口内炎、そして二日酔いにも応用されます。

注意点としては、胃の不調といっても冷えが原因の胃痛、吐き気、膨満感、食欲不振、軟便・下痢には適しません。冷えによる胃腸の不調には安中散(あんちゅうさん)や小建中湯(しょうけんしゅうとう)などが候補になります。

また、胃炎の場合は人によって原因や辛い症状が異なります。体質も考慮して漢方薬を選択します。漢方薬を服用する際には、漢方専門の薬局や医療機関に相談されることをおすすめします。



飯田 勝恵
飯田 勝恵 - Katsue Iida[薬剤師・薬日本堂漢方スクール講師]

静岡県立大学薬学部卒業。1998年薬日本堂入社。約10年間の臨床と店長を経験。店舗運営や相談員教育などに携わり、その後「自然・人・社会に役立つ漢方の考えをより多くの人に伝えたい」と講師として活動。薬だけではない漢方の思想や理論に惹かれ、気功や太極拳、瞑想なども生活に取り入れながら漢方・養生を実践している。

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