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公開日:2020.03.20 更新日:2020.05.013764view

「病は気から…」気分を変えることで体調が変わる

黄帝と一緒に『素問』を学ぶvol.13

病気の成り立ち・治し方、今と昔、大昔でこんなに違う!

新型コロナウイルスの影響が全世界に広がっています。巷には真偽の区別なく、さまざまな情報が氾濫していて、不安を感じている方も多くいるでしょう。「病は気から」といいますが、不安や怒りなどの感情が強くたまってくると、心だけでなく身体も病んできます。

2000年以上前に作られた『黄帝内経:素問』には、心と身体、生活と病に関する記述がそこかしこにみられます。「移情変気論篇第十三」には大昔の病気治療と今(黄帝にとっての今は、我々にとって昔!)では違うという問答がありました。
 黄帝が疑問に思ったのはこんなこと。「大昔の病は祝由(神に祈ったり、お経を読むなどで悩みを解くこと)によって病人の気分が変わり、多くの病気が治ったと聞くけれど、今はそんなことでは治らない。薬や外科的な方法でさえ治らないこともある。どうしてだろう?」

これに対する岐伯の答え。
「大昔、人々は鳥や獣とともに自然の中で暮らし、寒い時には体を動かして温まり、暑い時には日陰で涼をとるなど原始的な生活をしていました。今のような人に対する感情のもつれや欲などはほとんどないので、精神的な疲労に乗じて外邪が体内深くに侵入することもありません。そのため薬や外科的治療は不要で、気分を変えるだけでも治ることが多かったのです。」

なるほど、自然の中で自然のリズムに合わせて生活し、多くのことに心を悩まさずに過ごしていれば、病気を引き起こす邪気は体内に深く侵入しません。体表にとどまるだけの邪気なので、気分が晴れやかに変われば気血が巡り治っていくということのようです。

気になるのは我々にとっての昔、黄帝の時代はどうなのかということ。岐伯によればこの当時、すでに世の中は複雑で、精神的な苦悩によって臓腑機能を損ない、過労して体力を消耗していたようです。季節に合わせた過ごし方を守らない者もいて、邪気は体表から体内深くに侵入し、死をもたらす病に至ることがあり、これは気分を変えるくらいではどうにもならないのです。

「息=自らの心」呼吸を整えて負けない体を作る

では今、現代はどうでしょう?皆さんの想像通り、黄帝の時代よりももっと複雑です。
便利な道具が増えたため、体を使って動くよりも頭を使って考えることが増えています。あえて動く機会を作らなければ運動量は減り、あえて目や耳をふさぐ時間を設けなければ頭を休める機会も減ってしまいます。
昔は日が暮れればわずかな灯りのみで周囲は暗く、寝るしかなかったのが、現代は昼夜の区別なく活動できてしまいます。
世界中の状況が瞬時に情報として伝わり、家族以外の多くの人との関りの中で感情の揺れを強く感じることもあります。強く激しい感情の揺れは体を蝕みます。このような状況ではどんな治療方法でも太刀打ちできないことになります。

大昔のようにとは言いません。一日、一年のリズムに合わせた過ごし方を心がけましょう。日が昇ったら気分よく起き上がって活動を始めます。自然界に満ちたエネルギーを体内に取り込むために、体をのばして深く息を吸いこむとよいでしょう。日が沈んだら心身を休めます。体内にたまった疲れを取り去るために、目や耳を閉じて深く息を吐きだし瞑想するとよいでしょう。
「息」という文字は「自らの心」という成り立ちです。不安な情報に囲まれ、せわしなく過ごしていると息が浅くなりがちです。ぜひ深い呼吸を心がけて、病に打ち克つ強い心と身体を育てましょう。

齋藤 友香理
齋藤 友香理 - Yukari Saito[薬日本堂漢方スクール講師・薬剤師]

1969年北海道生まれ。東京理科大学薬学部卒業後、薬日本堂入社。10年以上臨床を経験し、平成20年4月までニホンドウ漢方ブティック青山で店長を務めていた。多くの女性と悩みを共有した実績を持つ。講師となった現在、薬日本堂漢方スクールで教壇に立つかたわら社員教育にも携わり、「養生を指導できる人材」の育成に励んでいる。分かりやすい解説と気さくな人柄で、幅広い年齢層から支持されている。

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