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公開日:2019.01.20 更新日:2020.05.194612view

正気は養生によって養われる ~ 一に養生、二に薬

気の省エネ生活 vol.19

正気(せいき)とは、生命力、自然治癒力のことで邪気に対抗して身体を守る力です。
邪気は身体の外からやってくるだけでなく、体内にも発生します。
正気が強ければ病気になりにくく、正気が不足していたり弱っていると不調が起こりやすくなります。

現象ではなくおおもとにアプローチ

天枢(てんすう)というツボをご存知でしょうか。
腹部、臍から外側2寸の位置にあり、下痢にも便秘にも効果があります。
下痢にも便秘にも効果がある?不思議に思いますか?
このようなはたらきを双向作用といいます。
普通であれば、下痢だったら“止める”、便秘だったら“出す”と考えますので、同じツボに逆の作用があるというのは“症状を抑える“という治療法の考え方に慣れていると不思議なことと感じるかもれません。

過敏性腸症候群という病症では下痢と便秘を繰り返すことがあります。現象に注目すると、下痢のときは“便を止める“、便秘のときは“下剤で出す“という対処になります。
辛い症状を改善することも大切ですので症状を抑える対処が優先されることがあります。一方で根本的な改善をしたい場合は現象ではなくおおもとに着目した方が良いでしょう。
天枢というツボを刺激することは、便通を本来の正常な状態に導きます。下痢をしていれば下痢の改善、便秘をしていれば排便を促すというように、排便の機能を調整して正常化すると考えられます。
現象に対処するのではなく、おおもとにアプローチする考え方は漢方の特徴のひとつと言えます。

原因にはたらきかけると体質改善につながる

おおもとにアプローチするというのはどういうことかと言いますと、症状が出るに至った原因に対処することです。
漢方は原因を重視します。めまいという症状を例に挙げれば、精神的緊張からくるめまいもあれば、貧血からくるめまいもあります。この2つのタイプのめまいは養生の仕方も漢方薬の選定も異なります。原因に対処することで根本的な改善へと導くことが出来ます。

症状や病気によって原因は様々で、気血水の充足度と流れ、五臓六腑の機能などが関係し、これらの状態を総合したものが“正気“です。
人の身体には外部や体内の変化にかかわらず生体内の状態を一定に保とうとする性質があり、恒常性と言われます。本来あるべき正常な状態に戻そうとする作用でもあります。正気は現代医学の表現では生体の恒常性、調整機能、防御機能などをさすと考えられます。

身体は優秀な製薬工場

私たちが普段おこなっている病気への対応には大きく2つあります。
①急な体調不良や症状がひどいときは症状を抑える対応を優先します。
②慢性化している不調や症状の程度がひどくないときには根本的な原因に対処して、
 症状が出ないような身体づくりをおこないます。

たとえば、睡眠不足が原因の頭痛。とりあえず症状を抑えて苦痛を取り除くことが必要であれば薬を服用します。しかし頻繁に起こる頭痛を根本的に改善したいのであれば、睡眠の時間や質を整えて正気を高めることが必要です。
薬で頭痛を軽減することは出来ても、正気を高めることは出来ません。今自分がおこなっている対応は、症状への一時的な対処なのか、おおもとである正気への対処なのかを知っておきたいです。

私が漢方相談薬局に勤務していたとき、調剤室に「一に養生、二に薬」という言葉が毛筆で書かれて貼られていました。はじめから薬に頼るのではなく、日頃から養生を重ねて正気を養っておき、必要なときには薬も上手に使うという健康維持・回復における基本的な姿勢を表しています。
身体は優秀な製薬工場です。身体は適宜、自分に必要な薬を作り出し、随時、修復・調整・防御していると考えることが出来ます。
自分に最適な薬を最適なタイミングで作り出す力が正気だと思えば、自分自身の正気を高めることが第一であり、日々の養生がその鍵になるのだと思います。

飯田 勝恵
飯田 勝恵 - Katsue Iida[薬剤師・薬日本堂漢方スクール講師]

静岡県立大学薬学部卒業。1998年薬日本堂入社。約10年間の臨床と店長を経験。店舗運営や相談員教育などに携わり、その後「自然・人・社会に役立つ漢方の考えをより多くの人に伝えたい」と講師として活動。薬だけではない漢方の思想や理論に惹かれ、気功や太極拳、瞑想なども生活に取り入れながら漢方・養生を実践している。

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