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公開日:2017.03.01 更新日:2020.05.203724view

杭州の老舗の漢方薬店、胡慶余堂と小さな博物館

中医の玉手箱(8)

上海から新幹線で1時間ほどにある観光地、杭州。古くは南宋(1127~1279年)の都がおかれた、風光明媚なところです。10年前、我が家で杭州に旅行した時に、夫がかぜをひいてしまいました。ちょうど連休で病院が休みのため、あれこれ調べてたどり着いたのは、胡慶余(フーチンユ)堂という薬局。ここには「胡慶余堂中薬博物館」という小さな博物館がありました。

中国では、こういった薬局にクリニックが併設されており、そこにいる中医師が診察します。それから処方箋を書いてもらい、薬局の中の「中薬房」と呼ばれる漢方薬を処方してくれる部門に行き、煎じ薬を1回分ずつ紙で包んだものを作ってもらいます。少し時間がかかるとのことなので、私たちはこの小さな博物館を見学することにしました。

この建物は、昔の建物をそのまま残してあります。もとはといえば、清朝末期に金融業からスタートして、一大巨商と称された胡雪岩(フー・シュエイェン)が商売の拠点とした「慶余堂」という漢方薬店。今は、中医のクリニックと薬局、市販薬の売店、そして中医薬の博物館となっています。1874年に開店し「北に同仁堂あれば、江南には慶余堂」と言われるほどの名店です。この店のモットーは「済世」(世を救う)「善挙」(慈善を行う)「戒欺」(欺かない)。誠意と志を持ってビジネスをすることが世を救うことになることは、どの時代でも基本的には変わりません。店の名前の「慶余」も「善い行いをしていればよいものが手元に残る」という意味の易経の言葉から来ています。

さて、博物館の中には「中医学史」の授業に出てくる昔の名医の肖像画と彼らの功績、煎じ薬の原料となる薬草の展示と説明、丸薬や散薬を作るための機械や手順など、さまざまな展示物がありました。それらを見ながら「おお、これが中医学古典の三書と言われる傷寒雑病論の!」「こうやって丸薬を丸く作るのか!」と思わず興奮する私。それらを収めているどっしりとした古典建築は、きちんときれいに磨かれていて、一つ一つがたいへん美しく、長い年月を経て、この建物が見てきた歴史に思いを馳せます。

見学を終えて1階の薬局に戻ると、薬剤師のおばちゃん達が調合された生薬類をきれいに紙で包んみ、袋に入れて待っていました。煎じ方がわからないので説明してもらうと「最初にこの大きな包みを30分水に浸してから煮て、最後にこの小さな包みを入れてね」。上海に帰ってきて、聞いた通りに土鍋で薬を煮たら、匂いが強烈で取れなくなってしまいましたが、薬効甲斐あって夫の具合はすぐ良くなりました。歴史の中に今も生きる中医学の素晴らしさを改めて知ることとなった旅でした。

原口 徳子
原口 徳子 - Noriko Haraguchi[中医師・薬日本堂漢方スクール講師]

1963年仙台市生まれ。高校生の頃に太極拳を学び、経絡や気の流れに興味を持つ。家族の転勤で2003年から10年ほど中国に住む間に、上海中医薬大学で中医学と鍼灸推拿学を7年間学ぶ。修士号(中医学)を取得して卒業、中医師の資格を取得後2014年に帰国。「お母さんと子供を元気にする漢方と養生」の普及のために活動中。

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