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公開日:2024.11.21 841view

心身の疲労回復に 十全大補湯

漢方薬のつぶやき vol.25

疲れがとれないのは気血不足
疲れの原因は気不足、血不足、気の滞りなどいくつか原因が考えられますが、「疲れやすい」といえば気不足が原因であることが多いです。
しかし、気不足による疲れは休めば回復します。もし「疲れやすい」を通り越して「疲れがとれない」状態であれば、気だけでなく血も不足しているかもしれません。

気血不足のことを漢方の用語では「気血両虚(きけつりょうきょ)」といます。気血両方が不足している状態をさします。

治し方は気血をともに補うこと。これを気血双補(きけつそうほ)といいます。
その代表的な漢方薬が、十全大補湯(じゅうぜんだいほとう)です。

十分に万全にしっかり補う
十全大補湯は、大病や慢性疾患によって不足してしまった気血や陰陽といったエネルギーを補います。

効能は「病後の体力低下、疲労倦怠、食欲不振、ねあせ、手足の冷え、貧血」

具体的には、心身ともに衰え、疲労感、倦怠感が続き、胃腸の機能も低下して食欲不振、顔色がわるく、皮膚に潤いがなく乾燥、脚腰に力が入らない、手足は冷たい、汗をかきやすい、貧血、低血圧などに用いられます。

ほかに、手術や疾病による出血や衰弱、産後の回復期、がん治療における体力低下や副作用の軽減、加齢に伴う虚弱(フレイル)にも使われます。

「十全」とはすべて揃っている状態を意味しますので、「十全大補」とは十分に万全にしっかり補うという意味合いがあると思われます。また、10種類の生薬から構成されていることに由来するともいわれます。

華やかな10種の生薬配合
気血双補の代表的な漢方薬、十全大補湯。
その生薬構成をみると、気を補う漢方薬である四君子湯(しくんしとう)と、血を補う漢方薬である四物湯(しもつとう)が配合されています。

四君子湯は補気、四物湯は補血の代表的な漢方薬で、どちらもそれぞれの目的において単独で使われることも少なくありません。

私の勝手なイメージですが、四君子湯も四物湯もスター的な存在なので、その2つを配合している十全大補湯はスーパースターです。

四君子湯と四物湯はそれぞれ4つの生薬から成りますので、合わせて生薬8種類。ここに桂皮(けいひ)と黄耆(おうぎ)を加えて10種類となります。
桂皮は温めて気血の巡りをよくする効果が、黄耆はほかの生薬との相乗効果で補気と補血の作用を高めます。

補中益気湯との違い
前回のコラム『漢方薬のつぶやきvol.24』では、「疲れやすい、全身の倦怠感、病中・病後の体力回復などに使われる」として補中益気湯を紹介しました。

補中益気湯は「補気剤」に分類され、主に気を補うことと胃腸の機能を回復することを目標に用いられます。
十全大補湯は先に述べましたように、「気血双補剤」に分類され、気だけでなく血も補いながら全身の機能を高めていきます。

十全大補湯の注意点として、温める働きのある漢方薬ですので、冷えがなく熱症状だけのものには使用しません。
また、胃腸虚弱の人では服用後に胃もたれや食欲不振、軟便になることがまれにあります。そんなときは食後に服用してみてください。

最後に。心身の疲労回復に使われる代表的な漢方薬として、気血をともに補う十全大補湯を紹介しました。
疲労倦怠が続くのは気血不足であることが多いのですが、冒頭でお伝えしたように、気の滞りや水分代謝不良などが原因の疲労もあります。
また、何らかの病気が原因で疲労が続いていることも考えられますので、心配なときは病院や薬局に相談しましょう。

飯田 勝恵
飯田 勝恵 - Katsue Iida[薬剤師・薬日本堂漢方スクール講師]

静岡県立大学薬学部卒業。1998年薬日本堂入社。約10年間の臨床と店長を経験。店舗運営や相談員教育などに携わり、その後「自然・人・社会に役立つ漢方の考えをより多くの人に伝えたい」と講師として活動。薬だけではない漢方の思想や理論に惹かれ、気功や太極拳、瞑想なども生活に取り入れながら漢方・養生を実践している。

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