「生薬の花めぐり」へようこそ!

漢方薬は、茶色で苦くて、遠い山の中に生えているというイメージではありませんか?このコラムは身近にある、漢方薬に欠かせない植物、そして見て良し、食べて善しのものを紹介しています。前回は百合(ユリ)の話でしたが、今回は蓮の花にまつわる話をお届けします。

今、東京では白やピンクの蓮の花が咲いています。蓮の原産地はインド亜大陸で、睡蓮科、蓮属、多年生の水生植物で、「荷(か)」とも呼ばれています。花の中の「君子」と言われ「友誼・友情」の象徴となっています。午前3時頃に花が開きはじめ、元気よく咲いているのは9時前後、午後には閉じてしまいます。一説によると、西太后は早朝に花が咲いていく過程を見たいといって、お供の人たちが大変苦労したそうですよ!

中国には「出淤泥而不染」という言葉があり、日本語では「蓮は泥より出でて泥に染まらず」と伝わってきました。泥の中から美しい花を咲かせる蓮は、自分を見失わない信念を持つ人や、気高さの象徴となっています。逆境を自分の糧にして花を咲かせるのは、人も蓮も同じかもしれません。

花は観賞用に湿地で栽培されますが、薬用にも食用にもできます。2000年以上も前から薬用にされてきました。清热解毒のはたらきがあるので夏にぴったりです。熱中症、瘀血(おけつ…血流が悪い状態)に良いとされています。食べるのは、食用に栽培されたものだけ。軽く煮出してお茶として飲みますが、生の花弁と野菜や卵を合わせて調理するメニューもあります。中国では、かつて他の生薬が配合された蓮花酒もありました。

蓮の実は花托の中で育ち、蓮子と呼ばれ、秋に収穫します。タンパク質、デンプン質が豊富で、中国では、すりつぶした実からでん粉を取り、砂糖と一緒に熱湯で溶いたものを日本の葛湯のように飲みます。月餅の餡にすることも多いですね。実は茹でてお粥、炒めもの、煮物、スイーツなどに。茹でて砂糖をまぶした、甘納豆のような食べ方もあります。慢性疲労、下痢、不眠にも効果があります。

実を乾燥させたものは「蓮肉(れんにく)」といい、補気・固渋の生薬として使います。滋養強壮、鎮静、安神、止瀉(ししゃ…いわゆる下痢止め)のはたらきがあります。日本では、清心蓮子飲(セイシンレンシイン)参苓白朮散(ジンレイビャクジュツサン)という漢方処方に配合されています。

約430年前の生薬の書物『本草綱目(ほんぞうこうもく)』には、花以外の様々な部分のはたらきも記載されています。品種によってはたらきが若干違いますが、どの部分にどんな効果があるのでしょうか?

蓮の葉、「荷葉(かよう)」は、むくみや肥満に、また実の中にある緑色の芯の部分は「蓮子心」といって、清熱薬になり、ほてり、イラつきを伴う不眠、高血圧によく使います。実が育つ部分の「蓮房(れんぼう)」は、血流を良くし、出血にも効果的です。花のしべ「蓮鬚」は腎(生殖、泌尿に関係する)を強くして、遺精に良いです。また、「れんこんの節(藕節・ぐうせつ)」は、二日酔いやのどの腫れに良いとされています。いずれも、お茶として用います。葉から茎や根、花、実まで、蓮は自分の身を尽くしているのですね。

白い花は東京都薬用植物園で、ピンクの花は上野で撮りました。
蓮の花の魅力が伝わったでしょうか?!

次回は「ゴジベリー」と呼ばれて人気のある「クコ」の花を通して漢方の知識をお届けします。
お楽しみに!

劉 梅 –リュウ・メイ
[中医師 ・薬日本堂漢方スクール専任講師]
中国黒龍江省生まれ、黒龍江中医薬大学卒業後、ハルビン医科大学付属二院に内科医として臨床を経験。1994年に来日、北海道大学医学部客員研究員を経て、2001年、薬日本堂に入社。薬局勤務の傍ら漢方相談員の指導・育成に参加、TV・雑誌でも活躍する。主な著書『中国の女医さんが教えるおいしくて身体にいい中華』『病気・症状を改善 これならできる漢方ごはん』。